書店を守れば、本は売れるのか
文化庁が8月28日に「文字・活字文化振興にかかる諸外国事情調査」を公表しました。
日本の出版市場は縮小が続き、特に書店数の減少は大きな課題となっています。また、国語に関する調査などでは1カ月の読書量や本を読まない人の増加も話題になっています。
この文化庁の調査は、こうした状況を受けて海外では書店や読書文化をどう支えているかという調査をしたものということです。各国制度の比較が行われていますが、特にフランスについては、読者アンケートや業界へのインタビューまで実施されており、生の声が見えるところが興味深いポイントです。これまで業界関係者の視察などでも話題になっていましたが、ここまでの調査はされていないはず。制度が何を変え、何を変えられなかったかが見えてきます。
フランスの独立系書店は3,000軒以上
フランスには書籍専門店が約3,400~3,500店あり、そのうち3,000店以上が独立系書店とされています。このほかFnacやCulturaといった大型文化店(本に加え音楽・映像・デジタル機器なども扱う点は、日本のTSUTAYAに近い複合カルチャーストアです)、スーパー、新聞販売店などを含めると、書籍販売拠点は約2万~2万5,000店と推計されています。
2025年の販売チャネル別書籍購入額を日本と比較してみました

日販「出版物販売額の実態より作成
フランスは、意外にも一つのチャネルに集中していません。そして実店舗の書店がいまも四分の一以上を占めているようです。人口100万人あたりに直すと、日本は約81店、フランスは約52店。絶対数でも人口比でも、日本の方がむしろ書店密度は高いようです。
そして、この環境を支えている代表的な仕組みが、よく知られる書籍の価格規制です。
価格規制の前提は大きく違う
1981年の「ラング法」によって、フランスでは出版社が本の価格を決め、小売店の値引きは原則5%以内に制限されています。このルールは実店舗だけでなくオンライン書店にも適用され、2011年からは電子書籍にも同様の制度が導入されました。
これに加え、フランスでは「送料」も規制。2014年にはオンライン販売で「5%値引+送料無料」を同時に行うことを禁止するいわゆる「反Amazon法」を導入、これにEC側が1ユーロセントなど激安設定を行うようになったため、2023年より「ダルコス法」が施行されています。現在35ユーロ未満のオンライン書籍注文には最低3ユーロの送料設定が必要になります。ただし、オンラインで注文して実店舗で受け取るclick & collectは送料無料です。
日本にも再販制度がありますが、送料に下限を設ける規制はなく、この点はフランスと大きく異なります。
で、書店は本当に救われたのか
ダルコス法施行後、書店の販売シェアは2023年、2024年と上昇しました。フランス文化省も、大手ECの価格面での優位性を弱め、実店舗への売上回帰を一定程度促したと評価しています。ところが2025年には、書店の販売シェアは前年比1.1ポイント低下。逆にインターネット販売は0.2ポイント回復しました。
今回の報告書でも送料規制によって書店市場が明確に成長したとは現時点では評価できないとされています。
さらに重要なのは市場の縮小が続いていることです。フランスでも年間1冊以上本を買う人の割合は減少が続いています。書店関係者からも送料規制は書店と読者の接点を維持することには役立つが、読書人口そのものの減少を反転させる政策ではないという声も出ています。
書店間の競争条件を整える政策と、読者そのものを増やす政策は、どうやら別物のようです。
調査からは地方の問題も浮かび上がりました。近所に書店があれば「だったら近くの書店へ」となりますが、近くに書店がない地域では通販で本を買う人の負担だけが増える可能性があります。今回のアンケートでも小都市や地方の回答者ほど送料規制への賛成率が低くなっています。ここまできちんと書かれているのが今回の調査のポイントではないでしょうか。
click & collectの利用が拡大
自宅配送には最低送料がかかる一方、オンライン注文した本を店頭で受け取る場合は無料です。このclick & collectがフランスでは拡大しているようです。現在、チェーン・独立系を含め約1,500店が対応中とのこと。
フランスに学ぶことは多いですが、この件についてはフランス約1,500店に対し、日本はe-honだけでも約3,000店の受取ネットワークがあります。Honya Club・紀伊國屋・丸善ジュンク堂・TSUTAYA・セブンネットなどを含めると相当規模のインフラがあると言えるでしょう。このあたりは認知度向上も含めてまだまだ出来ることは多そうです。
フランスにおける「書店」とは
先日、モロッコの独立書店支援の取組を紹介しました。
ここでも「書店として認証する」ということが話題になっていますが、フランスにも「優良独立系書店」の制度があります。2026年5月時点で536店が認証されていて、税制優遇や財政支援の対象になります。
認証条件は
資本や経営の独立性
店舗自身が選書を決められること
十分なタイトル数を在庫していること
一定以上のスタッフを配置(売上に対する人件費比率に一定の基準がある)
継続的に質の高い文化活動を行っていること
独立性の要件を緩和した別の認証制度もあり、チェーン書店なども申請できますが、ここについても店舗側に選書や運営の決定権が必要とされていて、本部が仕入れる本を一律管理している店舗は対象になりません。
フランスが保護しているのは「書店」という業態ではなく、選書・推薦・読者との会話、本と人とを繋ぐ「文化インフラ」を保護しているのです。書店の利用者側も50%が「書店には本を売る以外の機能が必要」と回答し、83%は書店を訪れた際に店員などと会話をする。というあたりは興味深い点でした。
カルチャーパスの現在
日本でもしばしば話題になる「カルチャーパス」についても現状が報告されています。日本には全国規模の文化クレジット制度はありませんが、図書カード配布を行う自治体も増えてきていますね。
カルチャーパスとは15~18歳を対象に、文化体験へのアクセスやクレジットを提供する制度で2021年より本格導入されました。ところが、実際にはこれがマンガ利用に集中してしまったことで批判も出ています。
文化体験の多様化を目的にしているパスがマンガに偏ってしまったのでは、目的を達したとは言いがたい状況です。
カルチャーパス利用後も新しい文化活動を継続している人は38%にとどまり、高コストであることなど制度の見直しが行われ、現在18歳への付与額は300ユーロから150ユーロに半減。書店サイドからも来店のきっかけや一時的な売上増加につながったものの、読書習慣の定着にはつながらないという声も出ています。
報告書には各国の調査もあるのでぜひ目を通してみてください。
では日本では
まとめに下記のような一文があります
”特にフランスでは、独立系書店が主要な保護対象として位置づけられており、店員の裁量と責任に基づく特色ある選書や、読書会等の文化的活動を書店の場で継続的に行うことが期待されている。このように、書店に求められる役割や機能を前提とした制度設計がなされている点は、日本との大きな相違点であり、施策を検討する際にはこうした前提条件の違いを踏まえて整理することが必要である。”
出版業界ではドイツ(定価拘束+買切市場)、フランス(このような書店支援制度)をここ二十年注目し、学ぶべき外国市場として受け止められてきました。実際に、視察の事例も多く視察報告や調査報告がたびたび行われています。フランスの送料規制やカルチャーパスは中でも注目の政策だったかと思います。ただ、その効果は一筋縄ではいかなかったようです。
書店を守ることと出版市場を成長させる政策は別の問題
本を買わせることと、読書習慣をつくる政策も同じではない
そんなことを改めて考えることになりました。また、何よりも、日本が先行している事例も見えてきます。click & collect、図書カードなど、投資や整備、他の動きと繋げることによってさらなるチカラを発揮できそうなインフラも数多くあります。
一方で、まだまだ日本で不足しているのは「どんな書店を文化として残したいのか」という点でしょう。
無書店自治体の数ばかりが報じられるようになっていますが、店舗数維持をKPIにしたところで良い結果が得られるとは思えません。文化拠点機能の支援としたときに、他の施設でなく書店だから出来ることの意義も説明出来るところにまで行っていません。市場縮小に抗うとして、その市場がイメージしているのは紙の出版物なのでしょうか。これについても、用紙メーカーの減産・値上げなど、供給側の制約が大きくなってきており、紙をつくることが厳しくなっているところで、出口だけを考えても良い結果が得られるとも思えません。
現場にいると、今の出版業界はすべての点において「待ったなし」の状況です。正直なところ議論を重ねていられるほどの余裕があるとは思えません。だからこそ、こういった諸外国の取組をケーススタディにして、よりよい選択肢をひとつひとつ選んでいく、そんなことしか出来ない気もしています。いずれにしても多くの示唆に富む調査報告書でした。
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