『本とは何か』を、業界の外に決められる前にー”本”や読書の定義が拡張するなか、フランスの動きが気になる

フランスで、「本とは何か」をめぐる議論が始まっています。
フランス税務当局が、軽減VATの対象となる「本」の定義を見直し、その通達案について一般から意見を募っているのです。
mizuho furuhata 2026.08.03
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フランス政府が「本とは何か」を一般に問いかけている

フランスで、「本とは何か」をめぐる議論が始まっています。
フランス税務当局が、軽減VATの対象となる「本」の定義を見直し、その通達案について一般から意見を募っているのです。

フランスの付加価値税(VAT)は、通常の商品やサービスだと20%。それに対して本の販売や貸出には5.5%の軽減税率が適用されているそうです。しかも対象は紙の本だけでなく、電子書籍やオーディオブックも含まれているとのこと。新聞や雑誌などの報道出版物には、さらに低い2.1%が適用される場合もあるようです。

今回の意見募集のきっかけになったのは、子ども向けの「ストーリーボックス」でした。
フランスの税務当局は2024年、端末とオーディオコンテンツを組み合わせたこの商品について、端末部分は単なる付属品ではないとして、全体に通常税率の20%を適用するとの見解を示しました。これを不服とした販売元が提訴し、裁判に持ち込まれました。

そして2026年7月16日、フランスの最高行政裁判所にあたる国務院が、税務当局の解釈を取り消しました。国務院が重視したのは商品の外形ではなく、消費者が何を購入しているのかという点だったといいます。では、フランスは「本」をどう定義しているのでしょうか。

新しい税務通達案では、本は基本的に”教育や思想・文化の普及を目的として、著者による「知的創作物(フランス語では“œuvre de l’esprit”)」を再現したもの”とされています。そのうえで、次のような条件が示されています。

・文章などによる十分な知的内容があること。
・情報の選択、編集、配列、索引化などによる明確な編集上の付加価値があること
・広告性が強すぎないこと
・読者が記入したり作業したりするための部分が大きすぎないこと
*広告部分と記入・作業部分の合計が全体の3分の1以下であれば、原則として本として扱うという具体的な基準も

ただし、フランスの定義は、必ずしも「紙の冊子」に限定されていません。カードや分冊をまとめたセット、折り畳み式の作品、パズルを含む本、電子書籍、オーディオブックも対象になり得ます。児童向けの塗り絵や学習帳、学校教材を補完するワークブックなどは、一部の一般基準を満たさなくても本として扱われます。
一方で、一般向けの書き込み帳、広告カタログ、ゲームそのもの、機器の説明書などは対象外。デジタルコンテンツについても、紙の本には存在しない機能が中心になれば通常税率となる可能性があるようです。

これらを見る限り、フランスは「本」を物体だけで定義していないということは言えそうです。
内容に知的・編集的な価値があるか。
消費者が購入する中心的な価値は何か。
付属する機器や機能は、その価値を届けるための手段なのか。

なお、生成AIによる文章や画像については、今回の通達案では明示的に扱われていません。ただし、「著者による精神の作品」「編集上の明確な付加価値」が要件とされているため、今後はAIを使ったか否かだけでなく、誰が内容を選択・編集し、作品としての責任を負っているのか問われそうです。

フランスは、税率だけで読書を支えているわけではない

もっとも、フランスの読書政策は、本のVATを5.5%にすることだけで成り立っているわけではありません。

フランスでは書籍の定価制度によって、新刊は原則として全国で同じ価格で販売されます。価格競争によって小規模な書店が排除されることを防ぎ、地域の書店網と出版物の多様性を維持することが制度の目的です。
読者を育てる施策も、年齢や生活場面に応じて用意されています。

乳幼児とその家族を本につなぐ「Premières Pages」、若者が地域の書店を訪れ、書店員や出版流通の仕事を知る「Jeunes en librairie」、社会のさまざまな場所で一斉に本を読む「15分間読書」などがあります。

夏には、図書館や書店の中だけでなく、公園、海辺、キャンプ場、レジャー施設などへ本を持ち出す児童読書イベント「Partir en Livre」が、全国規模で実施されています。

つまりフランスでは、本の価格を抑える税制、書店を維持する流通政策、本と出会う機会をつくる読書推進策が、ある程度まとまった政策として設計されています。
フランスから学ぶべきなのは、5.5%という税率だけではなく、価格、流通、書店、図書館、読書機会を一つの政策群として考える姿勢なのかもしれません。

日本はなぜ書籍が軽減税率にならなかったのか

今まさに、食品の消費税率を8%から1%へ期間限定で引き下げる方針が議論されていますが、そもそもなぜ書籍に軽減税率が適用されなかったのでしょう。

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